Se connecter「降参しろ!!」 少年は足と手といった動くための骨が折れていたが、まだ息はある。 土くれの化け物の中でまだ生きていた。「こんな戦いの中で降参だなんて随分悠長じゃないか」「お前は負けだ、降参しろ!!!」「しないよ」「どうしてだ!!」 ムツヤと少年の押し問答が始まる。「ムツヤ、君はキエーウのメンバーを殺したことがあるね?」「っ!! それは……」 大爆発でキエーウのメンバーを殺めてしまった事をムツヤは思い出した。「僕はね、僕の考えを間違っていると思わない。変える気も無い。だったら亜人の敵になる僕を君は殺さなきゃならないんだ」 ムツヤは言葉に詰まってしまい、なんて言い返せば良いのかわからない。 何か良くない予感がして土くれの化け物に食われたままの少年から距離を取る。 その口からは毒が漏れ出ていた。 魔法を解くと化け物はただの土に変わり、ボロボロと崩れ落ちた。その中から出てきた少年は既に。 死んでいた。毒を吸って自害していたのだ。「何が……」 ムツヤはダンっと地面を踏んで言う。「何が人をここまでそうさせるんだ!!!」「答えてやろう、憎しみだよ」 声のする方に目をやるとキエーウの幹部であり、ムツヤの裏の道具を盗んだ犯人であるウートゴが居た。 ムツヤはウートゴを睨めつける。まるで彼がこの世のすべての悪を背負い込んでいるような気がした。「俺達はみんな亜人に憎しみを持っている。俺も亜人に親しい者を殺されている」「だからって…… だからって亜人の人達全員が悪いわけじゃないだろう!!!」 ウートゴが懐に手をやり、ムツヤは剣を抜く。 しかし、ウートゴが取り出したのは武器ではなく、タバコだった。 人差し指から火を出してふぅーっと一服やる。「復讐なんてのは、ほとんどが生き残ったものの自己満足だ」 そのままタバコを吸いながら言う。「憎しみのため、仇を討つため、怨みを晴らすため、まぁ、おおかたそんな所だ」「でも、災厄の壺を使って亜人の人達を殺すなんて間違っている!!」「間違ってなんか無いさ、いや、間違いようが無いんだ。正解が無いからな」 ムツヤは剣を抜いて構えた。やれやれとウートゴも裏の道具の巨大手裏剣を取り出す。「お前は亜人を守りたい、裏の道具を取り返したい、その気持だけで戦っているのか?」「そうだ!!」「そうかな?
「世の中には色んな考えがあるんだよ、その中でも多数意見を元にルールや倫理なんかが考えられる」 銀髪の少年は語り続ける。「100年前は亜人は奴隷だという考えが世間で正しかった」「でも今は違うんだろ!?」 ムツヤは避けながら食って掛かった。「そうかもしれないね、でも僕たちはそう思わない」「いい加減にしろ!!」 ムツヤは槍を取り出して少年に近づく。毒の壁の外から攻撃をしようとしたのだ。 だが、その考えは少年が毒の壁を厚くすることによって防がれてしまった。 残された道は1つ、また全力の魔法を使って少年を殺してしまうことだ。「少なくとも僕達は亜人と分かり合うなんてできない」「これ以上邪魔をするなら……」「僕を殺すかい?」 ムツヤは言おうとしていた言葉を言われて驚く。「ほら、僕と君も分かりあえずに殺し合いをするんだ」「違う、それはお前がやめないから……」「僕も亜人にやめてと懇願しても、彼奴等はやめてくれなかったよ」 この少年もやはり亜人と悲しい過去があるのだろう。「どっちの考えが正しいか、少なくともこの場では戦いに勝った方が正しいことになるよ」 そんなやり取りの中、ムツヤは後ろから人の気配を感じ取っていた。キエーウの増援かと思いパッと向くと「ヨーリィ!?」 ヨーリィがちょこんと居た。長い黒髪が月明かりを受けてキラキラと輝いている。「あぁ、例の枯れ葉少女だね、残念だけど死んでもらうよ」 毒の風がヨーリィを襲う。「ヨーリィィィ!!!」 ムツヤはヨーリィを押し倒して避けようとするが間に合わない。毒の風を受けてヨーリィの髪と服が激しくはためく。 しかし、倒れるでもなくヨーリィはその場に立ち続けていた。「ヨーリィ、大丈夫なのか!?」「私はもう死んでいますから」「やれやれ、これはまずい事になったね」 まるで他人事のように銀髪の少年は言うと、ムツヤは微かに勝機を感じる。「ヨーリィごめん、俺じゃ近寄れないんだ!!」「はい、任せてお兄ちゃん」 右手に短剣を、左手に木の杭を持ち、少年に向かって走った。 まずは木の杭を投げるが、風で吹き飛ばされてしまう。その風が止んだ後にヨーリィが飛びかかる。「無駄だよ」 少年の後ろから突風が吹いて、体の軽いヨーリィは吹き飛ばされた。 その間にも木の杭を投げ続けたが、届かずに終わる。 着地
ムツヤが走る先には、またキエーウの連中がいた。剣を抜いて応戦をする。 1人あたり3秒もかからず次々にムツヤは敵を倒す。だがそこに、鎖とトゲ付きの鉄球が飛んできた。 ムツヤはこの攻撃を知っている。バッとその飛んできた方向を見ると本を開いた女が1人。 モモの持つ無力化の盾と同じものを構えて鉄球に備える。 飛んでくる鉄球を受け止めようとした瞬間、それは急上昇し、螺旋を描きながら落ちてきた。「ぐっ」 その軌道はムツヤの動体視力を持っても受け止めるので精一杯だ。体に直撃はしなかったが、危ない所だった。 あの鉄球使いの女は前に会った時よりも確実に成長をしている。一気に距離を縮めるのは危険だ。 ムツヤがどうしようかと考えている所にアシノ達が到着をした。 モモを見るなり、鉄球使いの女は激昂する。「醜い豚め、また会ったな。今度こそ殺してやる!!」 挑発に乗らずに冷静にモモは言葉を返す。その間も女は鉄球を生き物のように目の前でブンブンと振り回している。「何故お前はそこまでオークを憎む」「ハッ、他のキエーウのメンバーと同じよ、私の家族は醜い豚の盗賊団に殺されたわ!!」 その生い立ちを聞いてモモの頭にリースの姿が思い浮かんだ。 オークは人間からの差別が未だに酷く、盗賊や強盗といった犯罪に走る者も少なくない。「それは本当に気の毒だと思うし、申し訳ないと思う。だが亜人を皆殺しにするのは間違っている!!」「黙れ!! お前達は皆殺しだ!!」 そう言って女は鉄球をモモの元まで飛ばす。隙きができたとムツヤは女に飛びかかろうとするが、なんと鉄球がもう1つ飛び出してきた。 モモもムツヤも無力化の盾でそれを受け止めた、早く倒さなければキエーウに取り囲まれてしまう。「私がムツヤ殿の背中を守ります」「それしか無いか……」 モモが言うとアシノも苦渋の決断をする。危険だが、確かにあの2つの鉄球相手にはそれしか方法が無いだろう。 ムツヤの元へ走るとまた鉄球が飛んできたが、盾で防ぎ、ムツヤと背中合わせになる。「モモさん! ありがとうございまず!!」「いえ、私の命に変えてもムツヤ殿はお守りします」 モモは一度だけ振り返りムツヤに言った。「ふざけるな!! 糞豚がァァァァ!!!!」 2人は遅い来る鉄球を無力化の盾で防ぐ、しゃがみ込んで盾に身を隠し、ジリジリと女のもと
最後の訓練が終わった翌日、ムツヤ達はエルフの村を出る。 出発の前に全員でリースの墓参りを済まし、村のエルフ達にも礼を言った。「皆さん、どうかご武運を」「あぁ、世話になったなカノイ」「また来るわよ!!」 ルーはそう言って親指を立てる。「お世話になりまじだ!」「カノイさん、また!」 ムツヤとユモトも別れの挨拶を済ましたのを見てアシノは言う。「それじゃ出発するぞ」 その言葉を聞いてモモは馬車を走らせる。後ろではたくさんのエルフと冒険者達が手を振ってくれていた。 あのエルフ達を守るためにも災厄の壺を叩き壊さなければならない。 ここから北西に約50キロメートル。そこに災厄の壺がある。 馬車の中ではムツヤが探知スキルを使って裏の道具を持たない敵への警戒をしていた。 意外にも敵は1人も現れずに1日が終わった。いつも通り野営の準備を進める。「妙だな、まだ敵地から遠いからか……」 アシノは何か胸のざわめきを覚える。キエーウは足止めよりも本拠地を守ることを優先しているのだろうか。「アシノー、ごはんよーごはん!」「わかった、今行く」 そんなアシノを遠くから見つめる影があることを、誰も気づけていなかった。 腹が減っては戦はできぬとは言ったものだが、逆に腹がいっぱいでも戦はできない。 人間、食べた直後は動きが鈍るのだ。「ごちそうさまでした」 皆がユモトの手料理を堪能した後、ムツヤはハッと気がついた。「誰かが、いや、たくさんこちらに向かってきていまず!!」「やっぱりか」 アシノの嫌な予感は当たってしまう。探知盤にも裏の道具の反応が四方から集まりだす。「ムツヤ!! 北西から時計回りに敵の数を減らしていってくれ!!」「わがりまじだ!!」 そう言い残すと次の瞬間ムツヤは風のように消えた。「私達は馬車に乗ってムツヤの後を追うぞ!!」「はい!!」 モモが返事をして馬車に乗り込む。このままここに残れば四方から攻撃を受けてしまう。 移動しながら戦ったほうが安全だとアシノは判断する。「ルー!! 弱いやつでいい、精霊をここに残していってくれ」「任せて!」 牽制と偵察用の精霊をルーは召喚した。そして馬車を走らせる。 その頃、早くもムツヤは接敵していた。 キエーウの仮面をかぶる者達が次々と押し寄せ、ムツヤを見るなり剣や槍を構えて襲いかか
そんな飲み会があった次の日の朝、モモはいつもの様に皆よりも早く起きた。 日課となっているリースの墓参りだ。村外れの墓地まで長い髪を揺らしながら歩く。「おはようございます、モモさん」「あぁ、おはよう」 宿屋の娘カノイと出会った。手には花を持っている。 カノイはこうしてたまに、先祖の墓と一緒にリースの墓にまで花を添えてくれていた。「いつもありがとうな、カノイ」「いいえ、私に出来るのはこれぐらいですから」 そう言ってカノイはフフッと笑う。モモはリースの墓の前で両手を組んで祈りを捧げた。「いつも訓練お疲れさまです、きっとリースさんも見ていてくれてますよ」「……あぁ、そうだな」 目を開けるとモモは返事をした。そのまま訓練をしている平原へ行って素振りをする。 一刻も早く強くならなければならない、守られるのではなく守るようになれるようにと。 しばらくすると仲間たちがやってくる。「いつも感心だなモモ」「やる気がみなぎっちゃってますねー、若いって良いわー…… って誰が若くないじゃ!!」「お前は黙ってろ」 ルーのノリツッコミをアシノは適当に流す。「おはようございます、モモさん」「おはようございまずー!」「おはよう、モモお姉ちゃん」 ぞろぞろと朝の挨拶をする仲間たちを見てモモも挨拶を返した。「えぇ、おはようございます」 今日も訓練が始まる、残された日はあと10日だ。 災厄の壺が発動するまで8日間になった。今日は最後の訓練である。 アシノが最初言ったように付け焼き刃ではあるが、モモもユモトもだいぶ成長していた。「今日は本気出しちゃうから怪我したらごめんね!!」 ルーはいつもより強めの精霊を召喚する。今日はルーも訓練する側ではなく、精霊を操ることに専念した。 3体の精霊がモモに襲いかかるが、まず1体を斜めに切り上げて倒し、剣を振り上げたまま走り次の1体を倒した。(一撃一撃の威力が重くなっているな) アシノは感心してモモを見つめる。最後の1体は真横に斬り捨てた。 エルフ衆の矢がモモを狙って飛んでくる。すかさずユモトは防御壁を張った。 始めは目の前にしか張れなかったそれも、10メートルぐらい先になら展開できるようになっている。 自身とモモを防御壁で守りながら、ユモトも魔法の氷柱で精霊を貫き、数を減らしていく。 20分ほど戦
そんな訓練を朝から夕方までやった。皆ヘトヘトになって宿屋へ戻る。 そして、とある問題がもう1つ起きていた。エルフの若い衆と冒険者が飲み屋で話をしている。「さて、第2回勇者様パーティーの推しを語る回を始めたいと思います」 湧き上がる拍手。そう、ファンが出来てしまっていたのだ。「はい、やっぱり小さい背丈と大きな胸がギャップのルーさんが最強だと思います!」 エルフが手を上げて高らかに宣言する。「お前、本当ロリ巨乳好きだよな」「いやいや、あの身長であの胸は反則だろ!! しかも子供っぽい性格がまた良い!!」 頷く者たちがチラホラと居た。そこでまた別の冒険者が話し始める。「やっぱり僕は、王道を往くモモさんだな。礼儀正しく、強く、美しく、健康的な体!! 冒険者の鑑だろう」「それは一理ある」 またウンウンと男たちは頷く。「俺はアシノ様だな、勇者だってのに偉そうにしないし、たまに笑う時があるんだけどそれが可愛いんだ」「なにそれ俺も見たい!!!」 羨ましがる声が上がった。そこでまた手が上がる。「ヨーリィちゃんも良くない? 何か不思議な感じとお人形さんみたいな完成された可愛さが!!」「わかる」 っとそこで、酒を飲んでいたエルフがふと声を出した。「おいおいおい、お前らユモトさんの事を忘れてねーか?」 そこでどよめきが起きる。「お前知らねーのか? ユモトさんは男だぞ!?」「男だったら何か問題でもあるのかよ!?」 それは…… と言い掛けて声が止まってしまった。「可愛いけど男、男だけど可愛い、その脳を混乱させる所が良いんじゃねえか」「そりゃあ、分からないことも無いけどよ……」 確かにユモトは可愛い。 奥ゆかしいし、顔も可愛いし、いい匂いもする。「愛があれば種族も性別も関係ない、そうじゃねーのかよ!!」 そう熱く語るエルフ。それを聞いて男たちは感動で涙を流していた。「そうだ、大事なのは愛だ、俺達が間違っていたよ……」「分かれば良いんだ……」 その話題の勇者アシノ達は羽根を伸ばそうとして飲み屋の外に居たが。「今日ここに入るのはやめておこう」「え、えぇそうね、他のお店にしましょう!!」 先頭で騒ぎを聞いていたアシノとルーはそう提案をする。それをユモトは不思議そうに首を傾げて聞いていた。 もう1軒ある飲み屋へとやってきたムツヤ達は
ムツヤは『割ると辺りのクサイ匂いが消える青い玉』を触手トカゲの消えた場所に投げる。 これは割れた場所を中心として、約半径30メートルの空間に漂うどんな有害物質でも除去できる代物なのだが、普段は使い道が見つからないのでトイレのちり紙の横に山積みにされていた。 大きい方をした後のエチケットだ。 もちろん、これも外の世界で1玉売れば1週間は酒場で豪遊が出来る価値がある。 部屋は快晴の空の下で心地の良い風が吹いたように、爽やかな空気になった。 さっきまでの匂いを嗅いでいたムツヤは普段より余計に清々しく感じている。 ムツヤは知らない事が多い。 触手トカゲの吐き気を催す臭いは、常人であれ
「外の世界は危険だ、お前が行ってもすぐに怪物の餌食になってしまうだろう」 組んでいた腕を崩してタカクは続けて言う。「しかし、あの裏の塔の最上階にまで行けるぐらい力を身につけたらこの結界を解いて外の世界へと行かせてやろう」 その言葉を聞いた日からムツヤは塔の最上階を目指す日々が始まった。 物心が付く前から塔の60階までは冒険をしていたムツヤだったが、そこから先の階段には『触手だらけのキモいし臭いしデカイトカゲ』が居る。 近付きたくなかったので、いつもそこまで行って帰ってを繰り返していた。 それでも塔は毎回入る度に使い道も名前も知らないけど、面白そうな物がたくさん落ちている。 そし
ムツヤ・バックカントリーは今、外の世界に出て来て早々パンツ一丁にされてしまった。 月明かりに照らされるムツヤ少年の前にはオークが3人。その内1人は人間の美的感覚で見ると美人だ。 拾った本で外の世界の事を勉強していたムツヤは最悪の展開に気付いてしまい、一瞬で血の気が引いてしまう。「あ、あの、オーグさん、ひとつぅー…… いいですか?」「なんだ」 ムツヤは今にも泣きそうな、震えた声でオークへと質問をする。「ご、これから私は、あのー、いわゆる『っく、殺せ』って奴んなるんでしょうか? お、おれ、外の世界で女の子とは、ハーレムしだかったのに、お、オーグに」「何を気持ち悪いことを言っている
「……、どういう事よ」 ルーはジト目でアシノを見つめた。「ここを私達の拠点にして彼奴等を迎え撃つんだよ」「この様な場所で良いのでしょうか?」 ユモトも不安そうに尋ねた。アシノは一体何を考えているのだろうと。「こんな場所だから良いんだよ、ここは街が近いからどこから攻められてもすぐに駆けつけられる」「それなら街の中に居れば良いじゃない!!」 ルーがもっともらしい意見を言うが、アシノは首を振る。「ぶっちゃけた話、あの魔人に抵抗できるのはムツヤぐらいしか居ない。だが、ムツヤは正体を隠さなくてはいけない」「そんな事知ってるわよ」「だからムツヤには正体不明の冒険者になって貰わなくちゃ







